芸術祭は生な格闘技?! 北川さんのお話から出てきた思いがけない言葉の意味とは

10/6に開催した「アートプロジェクトの0123」第3回目の講義は、「人と人をつなげる芸術祭のつくり方」をテーマに、北川フラムさんを講師にお迎えしました。

国内外から参加するアーティストとボランティアスタッフ、芸術祭の舞台となる地元の方たちが、どのように触れ合い、協働しながら地域芸術祭は完成するのか。多くの地域芸術祭でディレクターや顧問を務める北川さんが、これまで関わられてきた地域芸術祭をとおして、アートの役割、ボランティアスタッフの重要性、地域住民との関わり、また今般のコロナ禍の影響についてなど、多岐にわたりお話しいただきました。

北川さんの芸術祭に対する熱意、地域や住民への思い、アーティストに対する愛情、そしてボランティアスタッフであるサポーターに期待することを、余すことなくお話しいただいたと感じました。ほんの一部ではありますが、その模様をお届けいたします。

<日本国内にこれだけ多くの地域芸術祭が広がった理由とボランティアの重要性>
アートはそれ自体に大変な力があるけれど、やはり作品を作っていく過程にこそ面白さがあるし、それを皆さんにお見せすることで、アートの魅力が開花し、地域型の芸術祭が広がっていったのだと思います。作品だけではなく、アーティスト、ボランティアスタッフ、地域住民と様々な人たちが関わることで起きる「面白さ」と「大変さ」を体験すると、もうやめられなくなってしまうのです。アートはそれだけだと孤立してしまいます。間に人がいない限り、場所と人は繋がらないし、作品と人も繋がらないと思います。その「繋ぐ」役割として、ものすごく重要なことをサポーターはやってくれていると思いますし、その気概はサポーター皆さんにあると感じています。

<コロナ禍での作品制作>
昨年開催予定だった芸術祭も含め、政府の蔓延防止法や緊急時代宣言の発令にともない、開催時期の延期や一部展示内容の変更を余儀なくされました。海外在住のアーティストとは、作品の説明や準備、制作にいたるまでリモートで行いました。リモートで作品制作は出来ないとは言いません。アーティストやスタッフの努力で、かなり肉薄することは出来ると思います。ある外国のアーティストは、芸術祭が開催される地域のリサーチを自国で綿密に行い、そのプレゼンテーションを聞いた地元の方々が、良くここまで勉強してくれたと感動されたケースもありました。でも、もしご本人が来日して、その地で作品を制作することが出来たら、また違う作品になったのではないかとも思うのです。観客にとっても、その地を訪れて、実際に作品を見て、作品に触れることが、人間の新しい体験になるのだと思います。

<参加アーティストの選考について>
出来るだけいろんな人に意見を聞いたり、紹介を受けたり、現物はなかなか見ることが出来ませんが、いろいろチェックしています。公募も必ずやっていて、500~1,000の作品を恐らく3回ぐらい見直します。
公募は、はっきりいって「デスマッチ」です。アーティストが一生懸命出してきた作品に対して、それが本当に良いのか、芸術祭で良い作品を作ってくれるのかを選ぶのは、本当に大変です。芸術祭の規模によっては、公募枠に限りがあるので、いいアーティストだけれど断らなくてはいけないときが本当に嫌で、これが一番精神的に参ります。それでも、これまで公募を続けてきた中で、芸術祭に出られた後、一気にすごい作家になっていった人たちは相当おられますので、今後も公募は必ずやりたいと思っています。だからアーティストの方々にも頑張って作品を出してほしいですし、出来るだけチャンスを作りたいと考えています。

<地域への思い>
地域の皆さんはその地でそれぞれに一生懸命生きておられて、それが作品をとおして芸術祭に反映されると面白くなってくる。地域芸術祭を開催するその地が、何とか生き続けて、人が誰もいなくならないようにしたいと、そう願う気持ちが、芸術祭を実行するエネルギーになっているのではないかと思います。地元の人は8割ぐらいがやって良かったと仰います。2年後、3年後の開催を楽しみにしている方も多いのです。
一方で、どうしてもお金の問題はあります。出来るだけアーティストの希望に応えたいけれど、その分費用はかさみます。そこで作品を作りたいと集落から希望があれば、叶えたいと思う。実際にお金のことは本当に大変です。また、公金を使って芸術祭をやることに対して反対者もおられます。アーティストが「こういうものを描きたい」ということが、社会にとって直接的に役に立つわけではないし、見る人にとっては共感できない作品もある。反対する気持ちもよくわかります。地域芸術祭に携わる上で、そういった反対意見も聞き入れつつ、実行していくタフさも重要ではないかと思います。
ディレクターとして重要な役割は、予算を確保することでもあります。いろんな人たちに、手伝ってください、一緒にやりましょうと誘い込まなければなりませんが、実際にはとても大変なわけです。地域芸術祭を取りまとめることは、いろんなことがタフじゃないとできないという感じがあって、僕は本当に「生な格闘技」だと思います。


― 冒頭に記載した「生な格闘技」という言葉の意味を、少しでも感じ取っていただけたでしょうか。お話を伺って、アーティストやボランティア、地元の方々と協働しながら、0から芸術祭をつくりあげる大変さは、私たちの想像をはるかに超えると感じました。お金の問題や場所の交渉、アーティストの選考、コロナによる調整など、やることは山積みで「大変だ」と仰りながらも、お話される姿はとても充実感で溢れていました。講義の中で北川さんがご紹介くださった芸術祭はどれも魅力的で、あぁ実際に足を運んでみたい、作品を直接見てみたいと思いました。


・北川さんが関わられている地域芸術祭
北アルプス国際芸術祭 / 長野県大町市(開催中)
https://shinano-omachi.jp/
奥能登国際芸術祭 / 石川県珠洲市(会期は11/5まで延長)
https://oku-noto.jp/ja/index.html
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ / 新潟県十日町市・津南市(開催中)
https://www.echigo-tsumari.jp/
瀬戸内国際芸術祭 / 香川・岡山県内の10市町(春・夏・秋と会期を3つに分けて来年4月より開催予定)
https://setouchi-artfest.jp/about/outline2022.html
リボーンアート・フェスティバル / 宮城県石巻市(春会期は2022年4月23日~6月5日予定)
https://www.reborn-art-fes.jp/
房総里山芸術祭いちはらアート×ミックス / 千葉県市原市(開催時期未定)
https://ichihara-artmix.jp/



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