「アートプロジェクトのO123(おいちにさん)」レクチャーコースの第9回目講義は、アート・コレクターの宮津大輔さんを講師にお迎えし、2月7日(火)に開講しました。
宮津さんはIT企業に会社員として勤務されながら現代アート作品を収集されてきた、いわゆるサラリーマン・コレクターのパイオニアとして著名な方で、日本を代表するアートコレクターのおひとりです。53歳でサラリーマンを辞め、現在は横浜美術大学教授(一時期、学長としてコロナ危機を立て直された)や森美術館理事などを務めながらも東京藝大博士後期課程に在籍しつつコレクターとして世界を飛び回り、自身のコレクションと国内外の美術館のコレクションとをコラボレーションした展覧会をいくつもキュレーションするとともに、政府の有識者会議の委員を務め、著書も多数お持ちです。
宮津さんからは今回、主にコレクターから見たアートと社会経済、さらにはNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)など先端テクノロジーの将来を見据えた現代アートをできるだけわかりやすく展望いただきました。
まずは、宮津さんご自身から既述のご経歴を自己紹介していただき、引き続き、現代アートの"価値"についてのお話しから始まりました。宮津さんのコレクションは現在400点~500点もあり、その保管が大変だとのことですが、その作家の芽が出る前から収集しており決して売却することはせず、将来的には寄贈したいと考えているとのこと。そこにもコレクター魂が強く感じられました。また、宮津さんが現在「推し」のアーティストの具体的氏名が何人も飛び出ましたが、それは講義をお聞きになった方だけのここだけのお話しとしてお得な講義となりました。
現代アートは、見た目よりかなり高額の値段がつくことがありますが、まずもってそのコンセプチュアル性が重要であり、それに"価値"があることをJeff Koons《Rabbit》やAndy Warhol《Brillo Box》などを例に引きながら解説いただきました。現代アートは世間離れした値段のことばかり話題になり、アートをお金に結び付けるべきではないとタブー視する考えもありますが、一方で国際情勢を見渡すと、例えば中東の国々は将来石油が枯渇した時代になった時に国民が何で食べていくかという先行投資のひとつとして、アートの経済効果に注目しているということでした。
宮津さんは、さすが大学で教えられていることもあり、たくさんのテーマをお持ちのようでしたが、限られた時間でもあり今回はその中で特にNFTとアートマーケットの現在動向を中心にお話しを展開していただきました。宮津さんはNFTで買うのならNFTをひとつのメディアとして捉え、NFTとして面白い、あるいはNFTでしか成立しない表現を評価しているとのことです。
また、NFTの売上高から見るとデジタルとの親和性ゆえからか音楽やマンガに上位が占められており、ファインアートはあまり多くなく、NFTがイーサリアム(Ethereum)という仮想通貨を通じてしか取引できないので、その通貨の為替変動があまりに大き過ぎるため投機の側面が強すぎることなどが今後の課題である。その一方で、例えば江戸時代の浮世絵のように当時アートとは認識されていなかったカルチャーのように、現在はファインアートとはみられていない文化がブロックチェーン技術によって保存と著作権管理が可能となり、後代にファインアートとして評価できるようになったときにその技術が役に立つこともあり得るかも知れないとも述べられました。
情報通信テクノロジーが今後も発達していくと、アーティストとコレクターの直接売買が主流になりそうな気もしますが、マーケットにおいてその間をつなぐ通訳としてギャラリストなどは重要な担い手であり、その役割は今後も変わらないだろうとのお話しも印象に残りました。(言い換え・入れ替え、個人の感想等を含みます。ご了解下さい。文責:forimalist)
【参考サイト】 宮津さんのインタビュー記事はネットにもたくさんありました。
「ARTnewsJAPAN」2022.1.24(シリーズもの)
https://artnewsjapan.com/business/article/2
「雑誌和楽Web」2022.6.23
https://intojapanwaraku.com/editorgo/203357/
「DearART」2020.4.20
https://dearart.jp/tc/column/1
「Web美術手帖」2019.9.11
https://bijutsutecho.com/magazine/interview/20471
「MUUSEO」2018.9.1(2回シリーズ)
https://muuseo.com/square/articles/785
「公益財団法人 国際文化会館」2015年3月(南條史生氏との対談)
https://www.i-house.or.jp/programs/ihj-world06/
—— 今年度のレクチャーコースもあと1回となりましたが、対面とオンラインのハイブリッドで講義を行っており、様々な質問をいただきながら進めています。また、受講者はアーカイブも一定期間ご覧になれます。