「アートプロジェクトの O123」レクチャーコース  第10回講義(トモトシさんの回)を振り返って

 昨年10月から始まった今年度の「アートプロジェクトのO123(おいちにーさん)」レクチャーコースも第10回・最終回となりました。今回は、インディペンデントアーティストのトモトシさんを講師にお迎えし、2月21日(火)に開講しました。
 トモトシさんのアーティスト活動は、なによりインディペンデント、すなわち「(資金的、組織的に)なるべく何かに頼らず自立して活動する」ということにこだわりを持って行っておられます。そうすることで忖度や自主規制を回避し、社会との接点のスレスレをギリギリに攻める、芸術性と社会性のバランスが極めて絶妙な活動をされています。そうした面では第2回に登壇された卯城竜太さん(Chim↑Pom from Smappa!Group)に連なる系譜のおひとりともいえますが、ピン(ひとり)であること、また、「TOMO都市美術館」というこれまたインディペンデントな住み開きのスペースを運営されている点からもユニークな先鋭性が際立っている方ともいえます。

 トモトシさんは豊橋技術科学大学(建築意匠)を卒業し、10年にわたって建築設計・都市計画に携わった後、アーティスト活動に転身されています。お話しは先日開催されたアートフェア「EASTEAST_TOKYO 2023」(会期:2/17-19、会場:科学技術館)でトモトシさんが行った観客に対する即興的なアクションの紹介から始まりました。他のアートフェアと違い、出展料も比較的安価で展示ブースでアクションを行っても違和感ない感じの自由な雰囲気がとても居心地の良いアートフェアだったと感じたそうです。(筆者も見に行ったのですが、若い男女カップルの観客が多く、かなり賑わっていました。)
 トモトシさんの作品は映像、あるいは映像インスタレーションが多いのですが、必ずしも映像というパッケージ的な作品ではない、例えばここ2,3年は毎週のように開催している『都市をたずねる』シリーズのようにあえて作品化せずアクティビズム的なプロジェクトも行っており、最近はこうしたプロジェクトと作品制作の2本柱になっているとのことです。講義ではそうした作品・活動をご紹介いただきながら進めました。映像作品の系統としては、都市空間の構造・システムを可視化する作品が多く、公園に勝手に木を植えた《逆パノプティコン》(2016)、セブンイレブンで調達した写真プリントや文房具を使って画廊のファサードをセブンイレブンに偽装した《セブンイレブンで、セブンイレブンを買う》(2018)、オリンピックのアスリート風の服装で通りがかりの人に棒高跳びの棒を運んでもらった《グレイトイベント》(2019)、1964年の東京オリンピックの時に街なかに建てられた国旗掲揚塔を使った《ミッシング・サン》と《ミッシング・ミッシング・サン》(2021)などが代表作品例として紹介されました。

トモトシさんの講義の様子(投影されているのは《セブンイレブンで、セブンイレブンを買う》のワンシーン)

 もうひとつの柱、『都市をたずねる』シリーズは多様な作風にあふれており、その中からは、「1時間透明になって飲む 渋谷編」「東京駅地下街で12時間過ごす」のような監視・管理空間を炙り出すアクション、「山手線を歩いて一周する」「ロード・オブ・アートラヴァー」「新宿駅から歩いて帰る」のような都市インフラに頼らない過酷なアクション、「47年越しのノック」「作場巡礼」「中央線路上研究会」のような見えなくなったアート的なものを掘り起こすアクション、「路上展示学会」「ゲリラ制作・ゲリラ上映・ゲリラ記録」のような開かれた公共空間を展示空間として使い倒すアクションなどが紹介されました。

 また、作品の紹介の途中で、本連続講座のジェンダーバランスの関係についてトモトシさんご自身のご経験を踏まえてコメントがありました。やはり気を付けなければならないのは、ふと出てしまう言葉などの中の「アンコンシャス・バイアス」ですが、そうしたことを遠慮なく言い合える開かれた場が重要であるとトモトシさんは語りました。

 トモトシさんの作品・活動は、しいて西洋現代美術史の系譜に位置付けるとすればギー・ドゥボール(仏、1931-1994)に連なる、都市への介入をテーマにしているものが多く、パブリック空間とはどこまでの範囲で、どこまでが許容される行為なのかのギリギリの境界を探り、社会や他者とコミュニケーションする際の見えないルールを浮き彫りにし、それに風穴を開けているといえます。発表場所も美術館やギャラリーといったアートとして制度化された空間ではない路上などのパブリックな空間に開く作品・活動といえます。一方で、トモトシさんの中では、あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」以後、例えば卯城竜太さんが運営されている会員制の展示空間「ホワイトハウス」のような閉じたあり方、さらに新型コロナパンデミックもあり、開くことが難しい時代にどうやって開くか、ということも考えていると述べられたことも示唆的で印象深い講義となりました。(言い換え・入れ替え、筆者の個人的感想等を含みます。ご了解下さい。文責:forimalist

【参考サイト】
 ・トモトシさんのホームページ(作品が分野別に網羅されています)
   http://tomotosi.com/
 ・TOMO都市美術館、都市をたずねるシリーズ
   http://tomotosi.com/tomo-museum/

——— 今年度の「アートプロジェクトのO123」は全講座終了いたしました。レクチャーコース、ライティングコースに、ご参加の皆様には大変ありがとうございました。来年度の活動にもどうぞご期待ください。

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