「アートプロジェクトの0123」レクチャーコース第3回講義を振り返って

天野太郎さんの講義の様子

 「アートプロジェクトの0123」レクチャーコース第3回目(11/8(火))は、美術館のキュレーターであり、大型国際芸術祭のディレクターなども歴任されてきた天野太郎さんの講義です。
 今回も、ほかではあまり聞けない貴重で具体的なお話しがとても盛りだくさんでした。とりわけ、世界の美術館やギャラリーは大きく変化している真っただ中だという内容が印象的に響きました。

 まずお話しの導入は、天野さんが最近クラウドファンディングを主導した、ドクメンタ15に参加の栗林隆さんの《元気炉》についてレクチャーがありました。この作品はいわば「サウナ」のようなもので、その特徴はなんと言っても、物体としての作品ではなく人が集まるという活動自体が作品だというものです。これは、今回のドクメンタの芸術監督ルアンルパの「ルンブン」=分かち合う、という考え方にも沿うもので、いわば「手を取り合って生きていく」というコンセプトであり、大型国際芸術祭としては画期的な考え方だということです。

 このあと、天野さんのお話しは、海外の美術館やギャラリーの最新事情に展開しました。まず、冒頭に述べられたのは、2018年10月に森美術館で開かれたテートモダンとニューヨーク近代美術館(MoMA)の館長らが参加したパネル・ディスカッションで、驚くべき発言が飛び出したことについてです。それはいわば「コレクションを増やすのはやめます」というものでした。19世紀以降、美術作品の数量が爆発的に増加しており、早晩収蔵庫はいっぱいになる、なのでこれからはコレクションする考え方、コレクションの見せ方を変えていかなければならないというものです。
 天野さんはこの発言の背景にある実例をかなり豊富に挙げられたのですが、その一部を以下に箇条書きでピックアップします。

・ルーブル美術館はアブダビに命名権を売る形でいわば支店を出し、そこにコレクションを貸し出している
・テートモダンは作品の貸し出しを強化しており、また、コレクションの修復にも力を入れている。それはメディアアートの保存のための機器とソフトウエアの収集にも及んでいる
・イタリアのブレラ美術館やボストン美術館は、収蔵庫や修復現場も来場者に見せている
・韓国の国立現代美術館の新館の清州館は施設自体が収蔵庫であり修復施設で見学もできるという画期的な設計になっている。また、シンガポールの国立ヘリテージセンターは分野ごとの管理ではなく、素材ごとの管理を行っている
・MoMAは例えばマティスの大作《The Red Studio》に画中画として描かれている絵を全て展示し、その研究成果も併せて見せるという展覧会を行い、また、プリンストン大学美術館はロイヤルアカデミーと組んでセザンヌの石切り場を画いた絵画14点だけを展示し、地質学的な視点も含めての研究成果も併せて見せる、いわば掘り下げ型の展覧会を開催してる
・メトロポリタン美術館はコロナ禍で165億円の赤字を出し、運営費の捻出のためにコレクションを売却するという異例の対応を迫られている

 海外の美術館はこうした財政逼迫などの事情からこれまで無料だった常設展を有料化したり、常設展は無料を継続するものの企画展は有料にするという動きに対して、ギャラリーセクターも大きく変化している。中小のギャラリーが閉業に追い込まれることにより、ガゴシアンなどのメガギャラリーの寡占化が進んでおり、ギャラリーがそれまで美術館が担っていた公的な役割を持ちつつある。例えば、ギャラリーが美術館級の大型の企画展を無料で実施する一方で、それにコレクターを積極的に招待し、コレクターに作品を美術館に寄贈あるいは寄託してもらうという活動をやっている。つまり、米国などは非営利と営利の境界がなくなりつつあるということでした。

 このように海外の美術館やギャラリーが変革している中で、日本では公的美術館はほぼ100%公金に頼るという唯一のビジネスモデルから抜け出せていない。一方、一部のプライベイト系美術館がファンドを多様化するなど知恵を絞り頑張っているとのこと。

 最後にこのような大きな動向を全体として見れば、ドクメンタ15の栗林さんの「作品=活動」にも共通することですが、美術館もコレクションを集めて見せるだけが目的という時代ではなくなってきているとまとめられるということでした。なお、このお話しは、前回の卯城竜太さんの講義での発言「美術館のオルタナティブ」という観点ともシンクロしているように感じました。(聴き書きの上、一部アレンジしています。文責:Mutoh)

【参考】
・天野太郎さんの連続コラム(連続コラムの最終回なのですが、今回の講義の内容にとても参考になります。)
https://yokohama-sozokaiwai.jp/column/22532.html

・天野太郎さんが統括ディレクターを務められた、コロナで中止となった札幌国際芸術祭2020の公式記録集は無料でダウンロードできます。
https://siaf.jp/news/pickup/p13794/

 —― レクチャーコースは今年度は一部対面で講義を行っており、来場者からもオンライン受講者からも、様々な質問をいただきながら進めました。また、受講者はアーカイブも一定期間ご覧になれます。

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