寺衆随想teraccollessays⑤展覧会レポート         中川陽介《timelessBANANA》

・作家名:中川陽介
・作品名:timelessBANANA#1~#4
・材料:バナナの皮、高級アルコール、アクリル顔料
・サイズ:各15✕10✕10㎝
・展覧会タイトル:遺伝的無意識
・会場:日本橋三越本店コンテンポラリーギャラリー
・会期:2023年2月22日(水)~3月6日(月)

中川陽介《timelessBANANA#1》

 この展覧会は、ギャラリスト池内務のレントゲン藝術研究所準備室などを調査研究している研究者(東京藝大博士後期課程在籍中)鈴木萌夏がキュレーションしたもの。他に、幸村眞佐男、中ザワヒデキ、増田将大らの作品も出品されているが、この記事では、中川陽介の《timeless BANANA》について、作家が在廊されていたので、そのお話しに基づいてレポートする。
 この作品は、ひとことで言えば、プラスティネーションという標本技術をバナナの皮に施したものだ。一般に用いられているプラスティネーション技術では標本対象物の水分と脂肪分を合成樹脂に置き換えることが多いが、この作品ではその代わりに高級アルコール(蜜蝋に似た成分)を使った。これにより100年は変色を防げるという。ただし、60度以上になると蜜蝋は溶け出す性質があるので保存にあたってはその点は注意が必要という。作家は、この技術を有している㈱吉田生物研究所と共同で作品を制作した。なお、使用材料にあるアクリル顔料はどうしても脱色してしまうバナナの先の部分を補彩したとのこと。
 単に標本技術を展示しているだけではないかともいえるが、それをアートとして見せる新しいあり方とも解釈できる。作家が語るところによれば、美術は例えば油彩画にしろ、現実を切り取ってそれを長期間保存する技術であるという一面もある。そうしたコンセプト性もある作品だ。筆者はアートとテクノロジー、さらには学術の境界を飛び越える「ART」のあり方を感じた。少し大げさに言えば「拡張した工芸=エキスパンテッド・クラフト」とでもいえるかもしれない。
 なお、作家にお訊ねするのを忘れたが、なぜバナナの皮をモチーフに選んだかについては、おそらくマウリツィオ・カテランのバナナの作品《Comedian》を連想させたかったのだろうと推測できる。

 蛇足的に筆者の感想を以下のとおり付け加える。日本の現代アートはクレア・ビショップに「キラキラしたオブジェばかり」と揶揄されるほど工芸性が強い作品が多い【注】。西欧文明においては中世まではアートは、技術や宗教、魔術と未分化だった。ルネサンス以降、アートというカテゴリーを分節化し純粋化してきたのがアートの歴史だともいえる。一方で日本では、アートは装飾技術(伝統工芸)、文学(例えば絵巻や文人画)、出版・ジャーナリズム(例えば浮世絵)などと未分化な状態が続いてきた。江戸期まで未分化な状況が続いていたわけで明治期以降、欧化政策によって急いで近代化を進めてきた。こうした歴史もあり日本の現代アートはビショップが言うように確かに思想性は弱いが、ものづくりの伝統を生かし、テクノロジーと積極的に横断するような方向はひとつの強みとできるのではないだろうか。(レポーター:forimalist

【注】東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科が2021年6月5日に開催したクレア・ビショップの講演会において、田中功起は、ビショップがかつてこのように発言したと語り、ビショップは否定しなかった(下記サイトの動画の1時間29分50秒ごろ)。もちろん、田中に悪意はなく、日本のアートに対する自戒として語ったと推測できる。
 http://ga.geidai.ac.jp/2021/05/21/clairebishop_day2/

中川陽介《timelessBANANA#2~#4》

【日本橋三越本店コンテンポラリーギャラリーのサイト】
 https://www.mistore.jp/store/nihombashi/shops/art/art/shopnews_list/shopnews0129.html

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