「アートプロジェクトの0123」レクチャーコース第4回目(11/22(火))は、ワタリウム美術館のCEO、キュレーターの和多利浩一さんの講義でした。和多利さんは、姉の恵津子さんとご一緒に東京・青山の私設のワタリウム美術館を運営されています。
ワタリウム美術館には何度も足を運んでいますが、お話しをお聞きして知らなかったことがたくさんあったことに驚くとともに、ワタリウム美術館の「思想」が浮かび上がる興味深いお話しとなりました。
まずは、今開催されている展覧会「加藤泉 寄生するプラモデル」からレクチャーは始まりました。加藤さんの作品は大変人気で、グッゲンハイム美術館の理事でも買えないと嘆くほどの人気作家とのこと。今回の展覧会はコロナ禍の中、趣味のプラモデル作りが作品に結びついたユニークな新作展で、加藤さんが商品企画したエディション付きで外箱にもこだわったプラモデル作品も販売されています。
次にお話しは、ワタリウム美術館がまだギャルリー・ワタリという小さな建物だった時代に一気に遡りました。ギャルリー・ワタリは、和多利さん姉弟のお母さん志津子さんによって1972年に今と同じ場所に建てられました。現代美術がまだ日本ではあまり馴染みがなかったころから、アンディー・ウォーホルやキース・ヘリング、ナム・ジュン・パイク、ヨゼフ・ボイスなど今では現代アートの巨匠中の巨匠を日本にいち早く紹介してきました。ワタリウム美術館を設立した1990年以降もハラルド・ゼーマンやヤン・フート、ジャン=ユベール・マルタンといったこれまた巨匠中の巨匠キュレーターを招聘し、時代を先取りする展覧会をいくつも企画してきました。また、それだけでなく、勤め帰りでも参加できる夜7時以降にレクチャーやワークショップなどを数多く行ってきました。そのひとつとして、ダライ・ラマを招聘しレクチャーとともにお坊さんがたにレジデンスをしてもらいながらパフォーマンスを行うイベントも実施しました。
このころから、美術館から文字どおり外に飛び出る、今ではアートプロジェクトとか国際現代芸術祭と呼ばれる形態の展覧会にこれも日本ではいち早く取り組みました。1995年の「水の波紋」展は渋谷から原宿、青山一帯の街なか展開を行う展覧会でした。それと、街なかのあちこちに小さな農園を作る展覧会、ご近所の商店にコレクションを貸し出す展覧会など、知恵を絞りつつ地元に密着した活動も行いました。そうした活動が最近開催した宮城県石巻の「Reborn-Art Festival」や「パビリオン・トウキョウ2020-21」にも結びついています。その志(こころざし)として、妥協ないハイクオリティな作品は地元の人に必ず理解されるとの和多利さんの情熱が伝わってくる講義内容でした。
ワタリウム美術館はコマーシャルギャラリーでもなく公立施設でもない、プライベートの美術館ですが、単にコレクションを見せるだけでなく、まさに目利きとしてまだ評価が定まらない国内外の作家を意欲的に取り上げるとともに、最近ではどの美術館でも当たり前になっているラーニングプログラムや、美術館の外に飛び出していく活動など、プライベート美術館の枠を拡張した先進的な企画に取り組まれてきました。今後も美術館やギャラリーをはじめとするアートのインスティテューションのあり方に先鞭をつけるような活動をされるだろうとの思いを強くしました。また、そうした点は前々回の卯城竜太さん、前回の天野太郎さんのお考えにも通底しているように感じました。(聴き書きの上、要約・意訳しています。文責:Mutoh)
【参考】コロナ禍でクラウドファンディングを行い、思いがけない金額が寄付されたとのこと(ワタリウム美術館がどのような活動をされてきたかが端的にまとめられています)。
https://camp-fire.jp/projects/view/319761
—― レクチャーコースは今年度は一部対面で講義を行っており、来場者からもオンライン受講者からも、様々な質問をいただきながら進めています。また、受講者はアーカイブも一定期間ご覧になれます。