「アートプロジェクトの0123」レクチャーコース  第7回講義(山峰潤也さん)を振り返って

 「アートプロジェクトの0123」レクチャーコースの第7回目1/10(火)は、キュレーターの山峰潤也さんの講義でした。
 山峰潤也さんは、東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、水戸芸術館現代美術センターの学芸員を経たのち独立し、現在はフリーランスのキュレーターとして活躍されているだけでなく、民間企業と連携したアートイベントのキュレーションやテレビ番組の監修、文化庁などの公的な事業にも携わるなど幅広く活動されている方です。そうした豊富なご経験からアートという限られた世界だけではなく、今回の講義タイトル「美術と資本主義の関係」、つまりアートがビジネスや社会経済とどのように関係していくかについて、視野が広がるレクチャーをいただきました。

 まず話題は、山峰さんが水戸芸術館現代美術センターの学芸員だった時に手がけた2018-19年の展覧会「ハロー・ワールド | ポスト・ヒューマン時代に向けて」と「霧の抵抗 | 中谷芙二子」から始まりました。これらの展覧会で山峰さんは急速に進展するテクノロジーとメディア環境の中でアートを批評的に紹介してきました。ですが一方でそうした経験の中で山峰さん自身が展覧会で投げかけた問題提起に対する回答を自身で回収する必要を感じ、指定管理者制度における組織内の学芸員という専門職の枠から飛び出し、アートのエコシステム自体を変えられないだろうかという思いに至り、インディペンデントのキュレーターになる決意をしたとのことでした。
 独立したあとのキュレーションとしては、株式会社アカツキと連携して再開発に伴うビルの取り壊しまでの定期借家による2年間限定のアート・コンプレックス「ANB Tokyo(Alternative Box Tokyo)」の立ち上げと運営に携わられます。この空間で目指したものは、アートだけでない様々なカルチャーとのミックスゾーンです。どのようにしたらアート以外の分野にアウトリーチできるかを心掛け、つい先だってまで六本木に16年間以上あったイベント空間「SuperDeluxe」や古くは新宿の小劇場などのような、今まで出会わなかった異質な人どうしが関係を持って実験ができる場になりました。
 山峰さんはそうしたなかで人的ネットワークを広げ、台湾国立美術館で開催された展覧会「世界不隨人類生滅 The world began without the human race and it will end without it.」や、avexと連携したイベント「Meet Your Art Festival 2022 ‘NewSoil’」、文化庁と連携した「Music Loves Art in Summer Sonic 2022」などを企画・キュレートしました。

 このあと山峰さんのお話しは、営利企業がカルチュラル・アントレプレナーとして先端的なアートを事業化する場合の評価指標のほか、例えばアートとビジネスのように使う言葉さえ違うセクターの人どうしを翻訳する立場の重要性に続きました。また、翻って、美術館では経営と社会化のバランス、人材育成などの観点の必要性を続く若い世代にも引き継げるような実績と環境整備にも注力されたいと語られました。
 山峰さんのレクチャーは、いわゆる一般的なミュージアムピースのような物体としてのアート作品でない作品が増加する現在、アートというものがテクノロジー化するメディアを通じてエンターテインメントやイベント産業などビジネス・経済分野と関係を深め、いかに新しく力強い動向や人材を生み出すかについて極めて示唆に富む内容でした。(適宜、要約・言い換えなどしています。文責:forimalist

【参考サイト】

○六本木「ANB Tokyo」での活動
 ・六本木未来会議インタビュー記事 https://6mirai.tokyo-midtown.com/interview/132_01/
 ・美術手帖インタビュー記事 https://bijutsutecho.com/magazine/interview/25033

○国立台湾美術館 「世界不隨人類生滅 The World Began without the Human Race and It Will End without It」展 https://artnewsjapan.com/news_criticism/article/88

○「MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 ‘NewSoil’」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000062.000065348.html

○山峰さんが企画アドバイザー、監修を務めているアート関係テレビ番組
 ・フジテレビ「CoA」(コア) https://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/20221198.html
 ・テレビ朝日「アルスくんとテクネちゃん」 https://www.tv-asahi.co.jp/arstotechne/

 —― 今年度のレクチャーコースは一部対面で講義を行っており、来場者からもオンライン受講者からも、様々な質問をいただきながら進めています。また、受講者はアーカイブも一定期間ご覧になれます。

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