今年度の「アートプロジェクトの0123」レクチャーコースの折り返し点、第5回目(12/5(月))の講師は、岡山大学准教授で文化人類学者の松村圭一郎さん。「コレクティブとは何か? 人類学から考える」というテーマでお話しをいただきました。
文化人類学というと、アートとはちょっと関係が薄いかなと感じる分野だと思うのですが、普段とは違った切り口で新たな視点が開けるような講義でした。
まず、インドネシアのアーティスト・コレクティブ「ルアンルパ」が芸術監督を務め、ドイツのカッセル市で今年開催された国際芸術祭「ドクメンタ15」からお話しは始まりました。今回のドクメンタは、作品というモノがあるのかないのかはっきりしない画期的な展覧会。ルンブン(共有して分かち合う米倉のこと)、ノンクロン(集まって交流すること)など耳慣れない概念がコンセプトになっています。
松村さんはそれ以前にルアンルパにご縁があったとのこと。それは、松村さんが審査員を務められている「YouFab Global Creative Awards」というクリエイター向けの国際的なコンテストの2019年の回。そのときにルアンルパのメンバーのおひとりのレオナルド・バルトロメウスさんという方も審査員でした。応募されてくるのはテクノロジーを使った作品がほとんどで、そうした作品に松村さん自身も少し食傷気味でした。そうしたとき、バルトさんが強く推したテクノロジーを使わず「場所づくり」する作品がグランプリをとり、それは松村さんにも印象深いことだったそうです。
次に文化人類学のクロード・レヴィ=ストロースのほか、ティム・インゴルド、そして今回中心に取り上げるブルーノ・ラトゥールの考え方に、レクチャーは移りました。ラトゥールは、それまでいわゆる未開社会を研究対象にしてきた人類学と違い、西洋社会の近代科学を対象にしました。その考え方は社会を人間だけで構成されたものではなく、人間以外の生物、さらには物体も含めたそれぞれすべてを等価なアクターとします。そしてそのネットワークが社会を構成するというのが、ラトゥールの中心となる思想「アクター・ネットワーク理論」です。その考え方からアートをとらえ直すと、アートを社会背景から、あるいは作品の内にあるものを審美的に見る態度ではなく、アートを自分以外の他者などのアクターとの思いもよらない結合の集合体(コレクティブ)とみなします。そしてその中に「場」を用意することが重要であるとラトゥールは言っていると松村さんは説きます。
例えば、ドクメンタ15に出品されたケニアのナイロビを中心に活動するThe Nest Collectiveの《Return to Sender》というタイトルの古着の小屋は、いわゆる先進国から送られた古着を送り返してきた作品ですが、それを見た観客たちと作品の新たなネットワークが提示されたととらえることができます。そのときそれは、人やモノなどが等価に組み合わされて形成された集合体(コレクティブ)とみなせます。コレクティブは単なる人間(アーティスト)の集まりではありません。そして、作品の完成が最終目的とはならず、アートと人間の新たな組み合わせが増えることによって社会変革に関与することが重要だと考えます。そうするとアートはマーケットに流通する商品ではなくなります。そう松村さんはレクチャーを締めくくられました。
こうした観点は、今年度のレクチャーシリーズの第1回で小川希さんがお話しされたアートマーケットとアクティビズム的アートとの二極化に関係しそうです。松村さんのお話しは、そういう分断状況へのひとつの方向性を示すものだと感じました。
なお、今回の松村さんのレクチャーは都合により全てオンラインで行われましたが、アーカイブが一定期間残るので、それを見つつ、出来れば松村さんのご著書『くらしのアナキズム』などを拝読しながら復習すれば、さらに理解が進むものと思いました。(適宜、要約・言い換えなどしています。文責:forimalist)
【参考】
・ドクメンタ15のレポート https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/25706
・YouFab Global Creative Awards2019 https://www.youfab.info/2019/?lang=ja
・松村圭一郎『くらしのアナキズム』(ミシマ社) https://mishimasha.com/books/9784909394576/